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#トルコ翻訳者招へい2024

翻訳と文学と私と
トルコ日本文学翻訳者招へいレポート#2

国際交流基金では、日・トルコ外交関係樹立100周年記念事業の一つとして、2024年11月4日から13日間、日本語からトルコ語への文芸翻訳を志す翻訳者7名を日本へ招へいしました。(2024年度トルコ日本文学翻訳者招へい事業報告)

 

プログラムの1つとして、大阪大学准教授の宮下遼先生をモデレーターに迎え、「翻訳と文学と私と」というテーマで発表を行いました。日本文学の翻訳について考えていること、自分と日本文学との出会いなど自由に発表し、互いの経験や視点を共有する貴重な場となりました。

 

レポート#2では、ネシベ・カヤさん、フィリズ・ユルマズさんの発表から一部をご紹介します。

集合写真

日本語国際センターにて宮下先生と(2024年11月)

戦後の占領下で書かれた日本文学への関心

ネシベ・カヤさん
ブルドゥル・メフメト・アーキフ・エルソイ大学研究員

私は第二次世界大戦後の米国占領下の日本文学作品を研究しており、博士論文のテーマは「日本占領期間(1945年~1952年)の検閲文学作品を文学社会学の観点から検討する」です。原爆が投下され、占領下に置かれる未曾有の時代に、日本文学はどのようにしてこれほど生産的なものになったのでしょうか。戦争による抑圧や検閲がある中で、人々は自らの感性を表現し続けました。だからこそ、米国による占領期間の文学は私の好奇心を刺激し、興奮を呼び起こすのです。特に三島由紀夫と安部公房の作品に注目し、研究テーマを検討していたところ、寺田博・紅野謙介・川崎賢子(編集)『戦後占領短編小説コレクション』というアンソロジーを発見。その内容の素晴らしさに感銘を受け、将来的にはトルコ語に翻訳して出版したいと考えています。日本の歴史に関係する文学作品は、トルコの幅広い読者の関心を集めるはずです。この作品集を、いつかトルコで紹介できることを願っています。

ネシベ・カヤさんの写真

トルコの詩をきっかけに、日本文学の道へ

フィリズ・ユルマズさん
アンカラ大学講師

小学生の時に、トルコの詩人ナーズム・ヒクメットが1956年に発表した『死んだ女の子』という詩に触れたことが、日本への興味を持つきっかけになりました。この詩は、広島の原爆投下で命を落とした7歳の少女の物語を描いた作品です。日本人でなくても反原爆の意思を伝える表現が可能であることを知りました。井上ひさしの『父と暮らせば』にも感銘を受けました。原爆を生き延びた主人公の罪悪感や、その罪悪感を抱えて生きることの辛さが描き出されています。広島弁で書かれているなど、形式的にもユニークな作品となっています。

私自身は日本文学を翻訳した経験はありません。ただ、トルコ語に翻訳された日本の小説の編集に携わったことがあり、その経験を通じて、日本語では文章内で主語が省略されることが多いことを改めて実感しました。翻訳者は、動詞から主語を推測しなければならず、特に一人称なのか三人称なのかを判断するのに苦労することがあります。「完璧な翻訳などは存在しない」、「翻訳はあくまでも試みである」とよく言われますが、いつか文学を翻訳する日が訪れたら、できる限り完璧に近づけるよう挑戦しようと決意しています。

フィリズ・ユルマズさんの写真

プロフィール

ネシベ・カヤ(Nesibe Kaya)

ブルドゥル・メフメト・アーキフ・エルソイ大学研究員(博士課程在籍中)。2017年に関西国際センターさくらネットワーク日本語研修、2018年~2019年に国際交流基金日本語教師研修、2021年~2022年に国際交流基金日本研究フェローシップで来日。博士論文は「日本占領期間(1945年~1952年)の検閲文学作品を文学社会学の観点から検討する」と題し、寺田博・紅野謙介・川崎賢子(編集)『戦後占領期短篇小説コレクション』を1つの題材として、検閲を受けた第二次世界大戦後の日本文学作品に反映された、当時の社会情勢とその変化について研究している。

ネシベ・カヤさんの写真

フィリズ・ユルマズ(Filiz Yılmaz)

アンカラ大学講師。2005年、アンカラ大学在学中に創価大学との交換プログラムで初来日。国費外国人留学生として2008年に筑波大学図書館情報メディア研究科に入学。2011年に同研究科修士課程修了、2017年に同研究科博士課程修了。日本外務省研修所やトルコの日本企業支社で勤務後、ネヴシェヒル・ハジュベクタシュ・ヴェリ大学助教を経て現職。アンカラ大学では、日本文学の授業を担当している。井伏鱒二著『黒い雨』、原民喜著『夏の花』、林京子著『祭りの場』、井上ひさし著『父と暮らせば』などの原爆文学作品の翻訳に関心を寄せている。

フィリズ・ユルマズさんの写真

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