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#中東欧編集者招へい2024

セルビアネナド・シモノヴィッチ / タネシ出版
Nenad Simonović / Tanesi

WEBサイト

三島由紀夫の『金閣寺』が日本文学への扉を開いてくれた

ネナド・シモノヴィッチ(Nenad Simonovic)
編集長

ネナド・シモノヴィッチさんの写真

金閣寺を訪れたシモノヴィッチさん

三島由紀夫の『金閣寺』が原点

セルビアのタネシ出版は、母国の作家だけでなく、スペイン、フランス、ギリシャ、アメリカ、ロシアなど多くの国の作家の作品を手掛ける出版社です。その中でも日本の作品を多く取り揃え、これまでに『古事記』、『竹取物語』などの古典から、松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶などの俳句集、森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介、志賀直哉、太宰治、三島由紀夫、川端康成といった大家の作品などを出版し、日本文化を伝える出版社として認知されています。

タネシ出版の編集長であるシモノヴィッチさんに今回のプログラム(2023年度中東欧地域編集者グループ招へい事業)での一番のハイライトについて尋ねると、「金閣寺を訪れたこと」とのこと、「三島由紀夫の『金閣寺』こそ、私が日本文学を好きになり関心を持つようになったきっかけです。18歳の高校生の時に出会い、夢中になって読みました。その金閣寺に実際に行くことができ、とても感銘を受けました。あの時の感覚を表現するのは難しいのですが、まるで夢の中にいるようでした。30年来の念願がついに叶って、夢にまで見たあの壮大な金閣寺を訪れることができたのですから」と嬉しそうに話してくれました。

表紙の画像

三島由紀夫『金閣寺』セルビア語版

表紙の画像

太宰治『道化の華』セルビア語版

表紙の画像

芥川龍之介『羅生門』セルビア語版

障壁が取り払われ、出版への扉が開かれた

プログラムへの参加前に、シモノヴィッチさんが抱えていたのは、出版権に関して日本のエージェントと連絡を取るのが難しいという課題でした。

「今後、日本の若手作家による様々なジャンルの現代作品をシリーズ化していきたいと考えています。日本の現代文学の幅広さ、多様性を読者の皆様に楽しんでいただけるような機会を提供していきたい。しかし特定のタイトルについて連絡したくてもEメールアドレスさえ見つからないことがよくあります」

こうした課題を抱えていたシモノヴィッチさんは出版社交流会に参加できたことは貴重な機会だったとその意義を強調しました。日本各地の書店や出版社への訪問も印象に残ったそうです。

「日本の出版社、編集者、エージェントと関係を築くことができたことは大きな収穫でした。この交流会で連絡がとれるようになれたらと期待してはいましたが、私たちのようなヨーロッパの小さな出版社が日本の出版社とここまでビジネス上の良い関係を築けるとは思ってもいませんでした。このプログラムを通じて、多くのドアが開かれたと言えます」

各出版社の印象も上々で、大きな収穫があったそうです。

ネナド・シモノヴィッチさんの写真

日本の出版社とのネットワーキング交流会にて

「訪問した出版社では、それぞれに温かく特別な待遇で迎えていただいたことも素晴らしい経験として記憶に残っています。日本に来る前に、版元がどこかもわからないまま出版したいと漠然と考えていた本が、訪れた出版社の本だった、ということもありました。自分の関心を持っていた本を編集した方々と交流できて嬉しかったです。また日本の編集者の方に『長年連絡をとりたいと思っていてもできなかった人がいる』と話したら、つなげてくださったのです。驚くべきことでした」

日本文学や日本の出版事情に関する講義もとても興味深く、「これまで知らなかった本、作家のことをたくさん学ぶことができました」と話します。

数タイトルの出版に向けて始動

セルビアでは30年ほど前から日本文学への関心が寄せられていましたが、「ここ数年、さらにそれが高まっているように感じる」と言います。「前述の三島の作品はすでに『古典』となっていますが、それに加わるベストセラー作家として、村上春樹が挙げられます。また若手作家の作品も10冊程度出版されています」。

プログラムを終えて帰国し、数ヶ月が経過。シモノヴィッチさんは交流した出版社からいくつかの作品を送ってもらい、ずっと、翻訳を考えながら目を通す日々を過ごしているそうです。「日本で交流できた出版社などに、帰国してからメールを送ったら、どの出版社からもすぐに返信が来ました。しかも驚くほど前向きだったのです」とシモノヴィッチさん。

「日本の作家の版権を得ることに何の懸念もなくなりました。今年は手始めに短い漫画をいくつか出版してみたいと思っています。それと、日本にいる間に読み始めた馳星周の『少年と犬』はぜひ翻訳出版したいと思ったので、準備を進めています。もう1冊、柳美里の『JR上野駅公園口』も翻訳出版へむけて準備中です。帰国後の数ヶ月はいろいろな本を探し、交渉することに忙しく、ほとんどその対応ばかりに追われました」と振り返りました。今回のプログラムで得た版元とのつながりによるメリットで意欲的な出版の計画を着々と進めているようです。

また他の中東欧の出版社の方々とネットワークができたことも大きかったとし、「日本文学の翻訳出版に関する様々な経験を共有することができました。プログラムを通じて、今後も連絡をとりあいながら協力していきたいと思います」と締めくくりました。

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