本文へ

このウェブサイトではサイトの利便性の向上を目的にクッキーを使用します。ブラウザの設定によりクッキーの機能を変更することもできます。詳細はサイトポリシーをご覧ください。サイトを閲覧いただく際には、クッキーの使用に同意いただく必要があります。

Bookmark_JF
#中東欧編集者招へい2024

モンテネグロニコラ・カサリツァ / ウロボロス出版
Nikola Kasalica / Ouroboros

隔てられていた両国を、文学を通じて近しい存在に

ニコラ・カサリツァ(Nikola Kasalica)
編集者、翻訳家

ニコラ・カサリツァさんの写真

心理的にも物理的にも遠い国、日本へ

モンテネグロは旧ユーゴスラビア連邦を構成していた共和国の一つ。西部がアドリア海に面しており、福島県とほぼ同じくらいの広さの国です。ウロボロス出版は、2019年に設立された若い出版社で、これまで30冊の詩集や散文等を出版しています。出版物は自国の作家のものばかりで、日本を含め外国の文学の翻訳はありません。編集者のニコラ・カサリツァさんは「モンテネグロから日本へ行くということ自体、まるで別の惑星に旅行をしにいくようなもの。正直、文化の違いや距離的・経済的な理由から、日本について考えることもありませんでしたし、日本を訪れるなんてことは一生ないと思っていました」と話します。

今回のプログラム(2023年度中東欧地域編集者グループ招へい事業)に参加するにあたり「この機会が、文学・文化全般における交流の始まりとなることを願っています」、「日本の書籍を実際に出版したことのある中東欧の関係者たちともぜひ話をし、アドバイスをもらいたいです」と期待を口にしました。

その一方で、正式に招聘が決まった際、これは単なる視察旅行ではなく、モンテネグロの使節としての側面があると感じていたとのこと。「モンテネグロの政治的・言語的背景について、日本の出版社の方々に知ってもらうことも私の大切な使命だと考えています。また他のヨーロッパの国からの参加者仲間、特に隣国の人たちにモンテネグロの良い印象を残したいとも考えていました」と話します。その自負がだんだんプレッシャーとなり、また小国の独立系出版社であるウロボロスに、日本の出版に関わる人たちが何を期待しているのか分からず、実は出発の日が近づくにつれストレスが大きくなっていた、と明かしました。

日本の歴史・文化に触れ、出版の現状を知った10日間

しかし、心配は杞憂だったようです。全行程を終え、「最もよかったことは、自分が“場違い”な感じがしなかったということです。東京の街を、小さな道を辿りながら歩いた経験は素晴らしく、京都は本当に故郷のように感じました。」とカサリツァさんは振り返ります。また、プログラムで印象に残っているのは阿部賢一先生と辛島デイヴィッド先生の講義で、「20世紀と21世紀の日本文学について改めて知ることができました」と話しました。講談社と文藝春秋社への訪問では、大手出版社での仕事の様子や“こだわり”を知り、京都の淡交社では茶道を体験し、出版という文脈の中で文化や歴史を大切にすることを学んだそうです。そして「日本の出版市場の現状について学ぶことができ、京都の大垣書店の方々からは書店の経営理念について聞くことができました。すべての内容に満足しています」と総括しました。

ニコラ・カサリツァさんの写真

淡交社での茶道体験

ニコラ・カサリツァさんの写真

日本の出版社とのネットワーキング交流会にて

日本の小説の初翻訳出版に向けて準備は着々

日本の出版社とのネットワーキング交流会でも十分な手ごたえを感じたそうです。モンテネグロに帰ってから、交流会に参加していた日本の出版社6社とすでに連絡をとっているとのこと、SF小説の出版を検討しており、出版に向けて順調に話が進んでいるようです。

また日本映画に興味を持っていたカサリツァさんにとって、映画に詳しい日本の編集者と連絡を取り合うようになれたことも大きな収穫でした。「小津安二郎監督に関する蓮實重彦氏の著書が、40年の時を経て、ようやく英語で読めるようになったことを教えてもらいました。ぜひ出版の権利を取得したいと考えています。他にも、翻訳出版したい本に、この10日間で数え切れないほど出会いました」。

出発前に、「詩歌や児童書、日本映画に関する書籍を翻訳出版する機会を得たい」と話していたカサリツァさんですが、希望通り、書籍の出版に向けて、大きく前進しています。

実は、カサリツァさんは帰国後に日本滞在を旅行記としてまとめて、出版しました。カサリツァさんの旅行記が、日本語でも読めると良いですね。

表紙の画像

Kasalicaさんの出版した日本旅行記。
短歌形式で書かれている。

あわせて読みたい