本文へ

このウェブサイトではサイトの利便性の向上を目的にクッキーを使用します。ブラウザの設定によりクッキーの機能を変更することもできます。詳細はサイトポリシーをご覧ください。サイトを閲覧いただく際には、クッキーの使用に同意いただく必要があります。

Bookmark_JF
#東南アジア児童書編集者招へい2025

トークイベント
「アジアからの風~東南アジアの絵本との出会い~」開催レポート

JF(国際交流基金)では、2025年9月、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムの4か国から児童書・絵本の編集者4名を7日間招へいしました。

招へい事業についてはこちらから。

 

2025年9月17日(水)には、国際交流基金(JF)本部にて、トークイベント「アジアからの風~東南アジアの絵本との出会い~」を行いました。シンガポール、ベトナム、マレーシア、タイで絵本出版の第一線に立つ編集者による、各国の出版事情やそれぞれの理念に基づいた特色ある絵本を紹介したトークイベントの様子を報告します。

東南アジア児童書編集者の写真

各国の絵本編集者の皆さんと、モデレーターの広松由希子さん(絵本評論家)

出会いはボローニャ・ブックフェア

モデレーターを務められた絵本評論家の広松由希子さんが、本イベントの経緯を紹介してくださいました。
2025年4月に、国際交流基金(JF)はJBBY(日本国際児童図書評議会)との共催により、ボローニャ・ブックフェアに出展しました。フェア期間中に、東南アジア各国の編集者が集うパネルセッションを企画し、その際に4カ国の編集者と出会い、各々の活動に感銘を受けたとのことです。
このイベントが好評だったことを受け、日本の読者や出版関係者にも東南アジアの絵本の魅力や現地の出版事情を伝えたいという思いから、JBBYの協力のもと、4名の日本への招へいと本イベントの開催が実現しました。

トークイベントの写真

ミッションドリブンで描く「語られてこなかった物語」

シンガポール / ローラ・ペイさん(シナモン・アート出版社)

最初に登壇したのは、Cinnamon Art Publishing(シナモン・アート出版社)の創設者ローラさんです。
シンガポールでは、既存の書籍業界2団体に加えてIBBY(国際児童図書評議会)の支部ができ、また児童書関連イベントも2つ設立されるなど、児童書は発展を続けています。
2020年、コロナ禍に彼女の「情熱プロジェクト」として設立された同社は、質の高いコンテンツと優れたデザイン、魅力的なイラストを重視し、持続可能性を考慮して意図的に1000部未満の小部数で印刷する戦略をとります。また、デジタルネイティブ、サステナビリティ、社会問題といった、これまで十分に扱われてこなかったテーマに焦点を当てることを理念に掲げています。

ローラ・ペイさんの写真

 

国内外の組織とのコラボレーションにも積極的で、3冊の絵本が紹介されました。『Mindful Consumption: Fish』は、持続可能な動物性たんぱく質の消費をテーマにした一冊です。今年のボローニャラガッツィ賞Amazing Bookshelfに選書された『Pacita Abad: The Woman who Painted the World』は、世界を舞台に活躍したフィリピンの女性アーティストの伝記絵本で、巻末には用語解説や、親子で対話するための問いが設けられています。パレスチナの教育機関と連携した『The Donkey who Carried the War on her Back』は、ガザの紛争をロバの視点から描き、数カ国に版権が輸出されるなど、国際的にも評価を得ています。

本の写真

『Mindful Consumption: Fish』

本の写真

『Pacita Abad: The Woman who Painted the World』

本の写真

『The Donkey who Carried the War on her Back』

2つの出版活動を通じて児童書の普及に貢献

ベトナム / レー・トゥ・フォン・クインさん(クラビット・キッドブックス社)

続いて、Crabit Kidbooks(クラビット・キッドブックス社)の編集長クインさんが登壇しました。
ベトナムの児童書出版市場は成長傾向にありますが、2022年のデータでは発行部数の半数以上を教科書や参考書が占めました。親が教育的価値を重視するため、文字数の少ない絵本は売れにくいという課題があります。
レーさんは、国際NGO Room to Read(ルーム・トゥ・リード)での活動を通じて、6~10歳向けベトナム語書籍が不足している課題を認識し、出版活動を開始しました。国内の作家やイラストレーターの経験が乏しかったことから、ルーム・トゥ・リードでは、ワークショップを開催して人材を育成し、ベトナムにおける絵本づくりのスタンダード形成に貢献してきました。

レー・トゥ・フォン・クインさんの写真

 

『Sớm mai(At Dawn)』は、ルーム・トゥ・リードのワークショップをきっかけに同NGOから出版され、2022年に国際的な推薦児童書目録であるミュンヘン国際児童図書館「ホワイト・レイブンズ」に選出された低学年向け絵本です。『Khu vườn trong tim ta(The garden in my heart)』はクラビット社の新刊で、祖父を失った喪失感を克服していく子どもを描いた絵本です。『Kế hoạch nghỉ hưu của Mèo Miu(The retirement plan of Miu the cat)』は、猫の円満な定年退職計画というユーモラスな視点から、子どもたちにメッセージを送っている絵本です。

本の写真

『Sớm mai(At Dawn)』

本の写真

『Khu vườn trong tim ta(The garden in my heart)』

本の写真

『Kế hoạch nghỉ hưu của Mèo Miu(The retirement plan of Miu the cat)』

多言語社会における読書習慣の育成

マレーシア / ウィング・ヤン・ホイさん(オドナタ出版社)

3番目に登壇したのはOdonata Publishing(オドナタ出版社)の編集者ウィングさんです。
マレー語、英語、中国語、タミル語などが使われる多言語社会という背景から、多言語学習の需要が高く、バイリンガルかつ教育的要素のある絵本が多いのがマレーシアの特徴です。また、市場の50%以上を教育関連書籍が占めています。
1999年に設立された同社は、中国語の読み物を出版することからはじめ、未就学児とYAのシリーズがベストセラー。絵本は比較的新しい分野です。コンテストで国内の作家を発掘・育成しています。近年では書籍のIP(知的財産)展開にも積極的で、中国など海外への版権販売のほか、映像化やオーディオブック化も推進しています。

 

ウィング・ヤン・ホイさんの写真

 

『朵朵不开心(Ellie Is Upset)』は、癇癪持ちの子象を通じて、子どもが自分の感情を言葉にするのを助ける教育的要素のある中国語の絵本です。『外婆的童年真好玩!(Let’s Have A Fun Childhood With Grandma!)』は、コンテスト受賞作でマレー語、英語、中国語の3言語で出版しています。テクノロジーのない時代の農場での遊びを描き、周囲の環境で遊ぶ楽しさを伝える絵本です。『我知道为什么为什么圣诞老公公不来我家(Why Oh Why Doesn’t Santa Come To My House)』もコンテスト受賞作で、中国語と英語のバイリンガル絵本です。「なぜアジアにサンタは来ないの?」という子どもの素朴な疑問から、文化の違いをユーモラスに描き出しています。

本の写真

『朵朵不开心(Ellie Is Upset)』

本の写真

『外婆的童年真好玩!(Let’s Have A Fun Childhood With Grandma!)』

本の写真

『我知道为什么为什么圣诞老公公不来我家(Why Oh Why Doesn’t Santa Come To My House)』

学校の傘下にある出版社がてがける、良い読書体験とは?

タイ / クアカモン(ジー)・ニヨムさん(サーン・アクソーン出版社)

最後に、Saan Aksorn Publishing(サーン・アクソーン出版社)のディレクター兼編集者ジー(通称)さんが登壇しました。
同社は学校法人の傘下にある非営利出版社で、学校という環境を活かしながら、時間をかけた実験的かつ教育的要素の少ない本づくりを特徴とします。タイらしさを取り入れることにも注力しています。日本の、特に福音館書店から多くを学んできたとのことです。
タイの読書文化には、物語やイラスト、アートを「楽しむ」ことよりも、知識や道徳を「学ぶ」ことを重視する傾向があり、教科書など教材や、教育やしつけに関する児童書が人気を集めるという課題があります。同社では、この読書観を刷新するため、SNSや親・教師向けのセミナーや、イベント、ポッドキャストなどを通じて、絵本のより自由な楽しみ方を伝える啓蒙活動にも取り組んでいます。

クアカモン(ジー)・ニヨムさんの写真

 

『ถนนสายเล็กๆ (A Small Road)』は、池の周りの小道を定点観測するように描き、タイの日常の風景とそこに住む生き物たちの視点を表現した絵本です。『ใบไม้แปลงร่าง (Leaves Transformation)』は、葉っぱを使ったアートを紹介するノンフィクション絵本で、文章がないと批判されることもあるという、タイ市場の難しさも示しました。IBBY(国際児童図書評議会)が発行している児童書リスト「IBBYオナーリスト」に2024年選書された『นานา (Nana)』は、ひとり親家庭を背景に、困難な道のりを進む子どもの勇気を軸に、巻末ではそこに隠された母親の愛情を描いています。

本の写真

『ถนนสายเล็กๆ (A Small Road)』

本の写真

『ใบไม้แปลงร่าง (Leaves Transformation)』

本の写真

『นานา (Nana)』

おわりに

本イベントでは、ボローニャ・ブックフェアでの出会いをきっかけに、東南アジア4カ国の絵本出版の第一線で活躍する編集者が一堂に会しました。各国の出版事情や読書文化の課題、そしてそれぞれの絵本3作品が紹介され、東南アジアの児童書の「いま」を知る、そしてこれからの交流の機会となる、貴重な時間となりました。

 

文 山森健太郎

イベントの写真

あわせて読みたい