日本文学にはまだまだ多くの発見がある
アドリアンナ・ヴォシンスカ(Adrianna Wosińska)
オーナー

ポーランドに日本文化を伝えることに貢献してきた出版社
ポーランドのキリン出版は、14年以上にわたり日本のフィクションとノンフィクション双方の書籍を60点以上出版してきました。日本文化に関する季刊誌『Torii』も発行を重ね、現在61号までリリースしています。小説では、これまでに向田邦子著『隣りの女』、宮部みゆき著『あやし』、金城一紀著『GO』、田口ランディ著『リクと白の王国』、有吉佐和子著『華岡青洲の妻』など、日本でも人気の高い作家の作品を多く出版してきました。また日本文化に関する学術的な会議やブィドゴシュチュ市でのジャパン・デーを主催するなど、ポーランドにおける日本文化の紹介に貢献しています。
ヴォシンスカさんはキリン出版のオーナーとして、翻訳者、グラフィックデザイナー、編集者のチームを統括しながら、作品の選定から編集、校正等、出版に至るすべてのプロセスに関わっています。自身も翻訳者として英語からの翻訳を行うほか、自身で執筆した『日本の人形、今と昔』と『日本の伝統的な玩具』という2冊の本も出版しました。訪日経験も4回あり、日本文化に多くの関心を寄せています。
これまでに多くの日本図書を出版してきたヴォシンスカさんですが、日本の本を翻訳出版しようと思っても連絡先が分からない、あるいは、連絡してもなかなか返事が得られない、ということが大きな課題だと来日前に話していました。「欧米のメジャーな言語の国の出版社と比べて、私たちはあまり信頼を得られていないのではないかと感じることもあります。ですので、日本の出版社を訪問し、出版社の方々と実際に会って話をし、出版社やエージェントの仕事の様子を見学し、今後連絡を取り合える関係を築きたいと考えています。そして、欧州と日本では出版に関して異なる点が多々あるので、日本の図書市場について学び、よりよく理解して翻訳出版に活かしたいと思います。」と語りました。
ヴォシンスカさんの著書『日本の人形、今と昔』
ヴォシンスカさんの著書『日本の伝統的な玩具』
日本の出版業界や文化に関わる人々と直接会う素晴らしい機会を得た
11名のプログラム(2023年度中東欧地域編集者グループ招へい事業)参加者たちは、それぞれ異なる国から参加しているというばかりではなく、所属する出版社の規模も様々、日本文学を翻訳出版した経験や実績も様々でした。しかし、プログラム全体は参加者の誰にとっても非常に有益だったと、ヴォシンスカさんは評価しています。「講師と話し合ったり、質問したり、また参加者同士、互いの経験を話し合ったりしたおかげで、理論的な知識だけでなく、編集者仲間からの実践的な情報やヒントも得ることができました」と、ヴォシンスカさん。日本の文芸シーンの最前線にいる作家について多くの情報を得ることができたことも大きな収穫だったそうです。
また、日本の文芸エージェントがどのように運営されているのか、日本では書籍をどのようにプロモーションするかなど、期待した以上に多くのことを学ぶことができたと喜びます。最も興味深かったのは、日本とポーランドにおけるエージェントの在り方の違いだったとのこと、「日本のエージェントは、『作家』よりも『作品』を扱っているということが分かりました。このことを知っていれば、今後はより効率的に、翻訳出版の際のコンタクト先を探すことができると思います」とヴォシンスカさんは話します。日本の出版社との交流会や懇親会についても「出版社、編集者、文芸エージェント、翻訳者、その他日本の出版業界の人たちや文化に関わる人々と、直接会うことができた素晴らしい機会でした。私たちの出版社では、このプログラムに参加する前にすでにある程度のネットワークを持っていましたが、新たな人脈を築くことができ、日本のパートナーとの絆を深めることができました」と大満足でした。

金閣寺を訪れたヴォシンスカさん
プロジェクトの成果を近々発表する予定
帰国後、ヴォシンスカさんは日本で出会ったすべての出版社やエージェントから、メールやカタログを受け取りました。「そのほとんどが、私たちが興味を持っているテーマやジャンル、あるいはタイトルを考慮してくれており、私たちのために厳選されたオファーでした。しかもその多くは、英語やその他の欧米言語の翻訳がないため、ヨーロッパではあまり知られていないものだったのです」と、日本で築いたネットワークが早速に活かされているようです。
来日前、キリン出版では、中島京子英訳短編集(Things Remembered and Things Forgotten)、綿矢りさ著『蹴りたい背中』などが出版候補として挙がっていましたが、今回の来日を経て出版リストに多くの作品を追加したとのこと、「日本文学にはまだまだ多くの発見があり、ポーランドの読者に新しい日本の作家を紹介できることを楽しみにしています」と意気込みを話します。
季刊誌『Torii』にはいつも日本文化紹介の特集記事が沢山掲載されますが、帰国後に発行された61号には、ヴォシンスカさんによる本プログラムの報告記事もありました。そして、特集記事のあちこちに、日本滞在中に撮影した美しい写真が掲載されています。

綿矢りさ『蹴りたい背中』ポーランド語版

中島京子英訳短編集(Things Remembered and Things Forgotten)ポーランド語版

吉田篤弘『おやすみ、東京』ポーランド語版
日本文化に関する季刊誌『Torii』61号。
ヴォシンスカさんの本プログラム参加報告が掲載されている。